トリツカレ男 [小説(ミステリー以外)]
いしいしんじの『トリツカレ男』を読みました。
いしいしんじって、
不穏じゃない話も描けるんじゃん!
…とびっくり。
なんか、今まで読んだ2冊とはあまりに違う感じで。
不穏な物語も悪くないけれど、
あたしはやっぱりこういう物語の方が好きです。
安心だし、幸福。
それにしても、自分の好きなことに一心不乱に熱中する、あるいは一生懸命になる、というのは、
いつからこんなにカッコイイものになったんだろう?
や、トリツカレ男の場合は、極端すぎるのだけれど
(現実にいたら、ただのヘンな人、なんだろうけど)、
でも、それでも、それほどまでに夢中に何かをする人、っていうのは、
人の心を動かす、と思う。
なんだか、うらやましいような気持ちになる。
少し前までの社会なら、
一生懸命になる対象は、たぶん職業的役割の遂行、とか、そういうものばかりだったんだと思う。
それこそ、武士がお国のために一所懸命する、とか、
サラリーマンが家族のために汗水流す、とか。
でも、今は、そういうのに加えて、
職業や役割とは関わりのないこと、
自分の好きなこと、に一生懸命になることが、ある種のドラマになる。
で、おそらくあたしだけではないと思うけれど、
役割の遂行に一生懸命な人の物語は、確かに人の心を動かしこそすれ、
うらやましいな、とは思わない。
なのに、好きなことに一生懸命な人の物語は、感動すると同時に、
うらやましい気持ちになる。
この差はなんなのかしら?
やっぱりここ10年くらい、自分探しブームだったから?
価値意識の変化の問題なのかしら…。
…あ、今、Amazonのレビューを眺めていたら、
この物語は、そういうことを考えるための物語ではなく、ラブストーリーらしいです。
確かに、裏表紙のあらすじにも「まぶしくピュアなラブストーリー」って書いてる。
そういえば、この本、
一番気になるのはやっぱり、語り手の正体です。
「秘密の兄弟」って、誰なんだろ?
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